第5話:「みーぬちゃんは鎌村家の嫁じゃろうが!!」——大晦日を返上した年末の攻防戦
前回の第4話の最後で予告してた、あの年末年始の話。ようやく書きます。
ここまで、認知症の告知から始まって
対策だの、施設の話だの、ずいぶん真面目な話を長々と綴ってきちゃいましたけど
義実家という場所は、そんな理屈だけで回る世界でもなく・・・
結局のところ最後にやってくるのは、いつものアレ。
「嫁の役目を果たせ」問題。
(꒪ꇴ꒪〣)
先に言っておきますと
タイトルからして昭和の香りがぷんぷんしますが、これは令和のおはなしです。
例によって、これはわたしから見た景色の記録です。
そもそも「嫁の役目」とは何か問題
まず前提を共有させてください。
嫁は何もしなくていいから、と言いながら、何もしなければ嫌味をいう。
これが鎌村家の基本仕様です。
見て覚えたり、先を読んでやろうにも「みーぬちゃんはなんもせんでええから。おかあさんがやるから」とさせて貰えず、
味を覚えたいです、教えてくださいとお願いしても「そうは言うたかて目分量じゃからなぁ」と教えてくれず(からの、醤油ドバドバ。はい、レッスン終了〜)、
食器を洗って食器棚にしまいたくても「おかあさんしか入れる場所はわからんから、おかあさんが入れるから。勝手に入れられると後が困るんよ」と言われて置き場所を把握することもできず、
することもなさそうなので、台所から離れて旦那ちゃんのもとで寛いでいると、ウニ男から「おい、みーぬ!! なんですそこを手伝わんのじゃ!」といきなり怒鳴られ、すそこ様も便乗して「みーぬちゃん… あなたはお客さんじゃないんよ。嫁さんなんじゃから」と咎めてくる始末。
・・・いやいや。お手伝いすることありますか?って聞いたら「今は何もないから、休んでくれてええよ。手伝ってほしい時は言うから」と言われたからですけど?
トラップかよ・・。
それにしても、どれもこれもエピソードが地味すぎるのよーーーーー
でも、メンタルにじわじわとくる感じ。
え? わたしが悪いの?っていうこの感覚。
役目は与えない。でも、果たさないと怒られる。

どないせいっちゅうねん!
舞台は2023年12月です
この年のわたしは、とにかく年末年始の休みをまるっと義実家に納品するのが嫌だったの。
まことくんはなかなか休みが取れない人で、まともな連休は年末年始だけ。
しかもこの年のわたしには、ある覚悟があった。
すそこ様はまだ全然「認知症のにおい」がしない。でも診断はついた。残り時間はわからない。男性陣は(当時は)まーったく頼りにならない。いずれわたしが全部背負う羽目になるかもしれない。
だったら——自由になれる時間は、今しかなくない? 今のうちに旅行するぞ!
それにその年は、まことくんへ帰省したくないの感情をぶちまけられたことと、義家族への呆れなども相まって、わたしも呪いが解けてたから、ちょいと仕掛けたんです( *¯ ꒳¯*)
どうせ帰省するなら、前後に旅行を挟んでやる!
今年は大阪に立ち寄ってから行こう!と。
GWの後は本当にしばらく穏やかだったし、お盆も「暑いからゴルフは無理です」の地道なロビー活動がきいて帰らずにすんでいたので、まぁ わたしも調子をこいて、不文律の既成事実にメスを入れちゃいました。
とはいえ、すそこ様が
「今までは帰ってきてくれよったのに!!」
「長期の休みしか帰ってこれないのに!!!!」
「休みが1週間近くあるのに帰ってこれないわけない!!!」
の三段活用で反抗してくることは容易に想像できたので、押さえるとこは押さえとこうと思ったわけです。
で、考えた。すそこ様が絶対に譲れないもの、それはなにか?
すそこ様は、元旦に家族そろっておせちを食べる事に異様なこだわりをもっているのです(-_-;)
くだらねぇ〜…
逆に世の中の人に問いたい。そうなんですか?
いつかの元旦のコント
なんでわたしがそう確信しているかというと、脳裏に焼き付いて離れない元旦があるからです。いつの正月だったかはもう覚えてないんだけど。
カツオくん(当時すでにアラフィフ・独身)が、お仲間と初日の出を見にいくといって大晦日の夜から出かけたのね。
うんうん、いいじゃない。お友達と初日の出。いい歳した大人なんだから好きにすれば?
……と思うじゃん?
すそこ様、厳命。

「あんた。今から出かけるん? やめることはできんの? 朝までに帰ってこれるん?」
「家族でおせちを一緒に食べるんじゃから、必ず朝には帰ってきなさい。それができんのなら行くんじゃない」
アラフィフ独身男への、門限です。
で、案の定よ。初日の出帰りの大渋滞に巻き込まれて、カツオくんが帰ってきたのは昼近く。その間、すそこ様は怒り狂って電話しまくり。
「家族全員そろって、元旦の朝におせちを食べるんは、うちのルールなのに!!!! あんたがおらんのに先に食べる事ができんから、みんな待っとるんよ!!! いいから早く帰ってこんか!!!!」
……ん? 今なんて?
そう。全員、ご飯はお預けなんです。
その訳のわからんルールによって、わたしたちは昼までご飯がお預けになりましたから。
うわーん お腹すいたよーーーーー
で、昼前にカツオくんがぶつぶつ言いながら帰宅。カツオくんも相当ブチ切れてて反抗するわで 2人の不毛な壮絶な言い合いバトルが繰り広げられてたの。
で、どうやって着地するんかなぁ、、と私が思っていると、いつのまにか全員着席。すると、ウニ男がおもむろに口を開くの。
ウニ男「あけましておめでとうございます」(一礼)
家族一同「あけましたおめでとうございます」(一礼)
ウニ男「本年もよろしくお願いします」(一礼)
家族一同「本年もよろしくお願いします」(一礼)
はい、ここでようやくご飯にありつけまーす。
なんですか? これはコントですか?
ちなみにこの家、朝に顔を合わせて「あけましておめでとうございます」って私が挨拶するとね、一族が奥歯に物の挟まったような顔をするの。
え、何? わたしなんかした? って思うじゃん。
どうやら新年の挨拶は、おせちを前にしたウニ男の一礼とセットで「初めて」言うのが決まりらしくて、それより前に言うのは許されてない。誰も教えてくれないけど、空気がそう言ってる。
くだらないでしょ?
いや、ほんとね くだらな過ぎるのよ、全てが💧
ただね。この焼き付いた光景が、後年のわたしに大事なことを教えてくれたの。
すそこ様の聖域は「元旦に家族全員でおせちを食べること」。
覚えた。
大晦日、わたしは何をしていたっけ?
そこさえ守れば(まぁ、大丈夫だろ)と思って、元旦の朝に帰ることに挑戦してみることにしたわけですが、その前に。念のためよ? 大晦日のわたしって、いつも何してたっけ?って指折り数えてみたの。
わたしに任された義実家の”大晦日の主な仕事”とは:
- 出来上がっている総菜をおせちの重箱に詰める。三段目はから揚げオンリー。
- かまぼこを切って並べる
- 重箱に入りきらない分を大皿に盛る
…以上。
火を使う作業もなければ、味付けもなし。
ただひたすらにかまぼこを切って並べるだけ。
それ以上はさせて貰えませんから(_ _。)…
単なる助手にしかすぎないんで・・・
……うん。わたし、大晦日にいる意味、なくない?(ないです)
でもこの詰め込み作業のためだけに、大晦日に帰省することを”義務”のように強要されてたんだからね ハァー… くだらなすぎる。
よし。大晦日は返上! 元旦に帰る! 決定!!
外交文書、送信
計画は立った。……が、これを言い出すのが、まぁこわいのこわくないのって。(こわいです)
怒ったら言う事聞くとは思うなよ!って強い意志を持って挑んでますんで、こちらも。
血を流す覚悟はもちろんしてるんで(;・∀・)💦
さて・・・ どう伝えるか。
どう伝えたところで言いがかりをつけて怒られるとはいえ、とりあえず脚本通りにLINEのメッセージで伝えてみた。送ったのはわたし。
「まことくんが31日まで仕事になるかもわからなくて…。
まだ実際にどうなるかは分からないんですけど、新幹線のチケットを事前にとらないといけないんで大晦日の夜遅くに着く新幹線にしました。
だから、1日元旦の朝にはそちらに問題なく着けるかと思います。
元旦の朝にはみんなでおせちを食べることはできますよ。
いつもは、おせちを私がお重に詰める係なのに、今回はそのお手伝いができなくて申し訳ないんですけど」
見てください、この仕事ぶり。
聖域(元旦のおせち)はちゃんと押さえてますよアピールに、詰め係のお詫びまで先回りで添えてある。
われながら、隙のない外交文書です。
基本的にわたしの手法は、相手の一番譲れないことをおさえて、あとは譲歩してねってやり方なんで。
もしかしたらこのまんま波風立たせずにいけるかな・・・ って淡い期待を持ちつつ。
恫喝電話と、わたしが打った布石
で、送った途端・・・ハイ。めちゃくちゃ攻撃にあいました・・・。
すそこ様に。カツオくんに。
電話が鳴ったのは、まことくんのスマホ。めたくそに怒られました。
なんで?(-_-;)

「なんであんたも来んのじゃ!!」
「手伝わんとはどういうことだ!?」
……わたしがしてるの、唐揚げを重箱に詰めてるだけなんですけど??
おせちの中身も、すそこ様特製の手作り惣菜の品ばかり。
しかも、わたしは出来上がったものを詰めるだけ。
“いつも帰った時にはもう全て作られてて、私はお重に詰めるだけだから”と説明するも

「それだったら、もっと早く来ておかんの味をみーぬちゃんが引き継げばええじゃろーが!」
「だから! なんで一緒に帰ってこにゃいかんのだ?
みーぬちゃんだけ先に来ればええだけじゃろうが!!」
ていうか、人の言葉に被せてくんなや! こっちに話をさせろやーーー
質問しといて、回答を聞く気は一切なし。この、会話の形をした感情圧よ。
必死の思いで、言葉が被ろうともわたしも負けじと言葉を被せる。「だから!! ~」
そして何度も何度も、大声でこれを浴びました。

「みーぬちゃんは鎌村家の嫁じゃろうが!!」
「まことは仕事だとしても、あいつは自分のことは自分でできるじゃろうが! みーぬちゃんがあいつについとらんでもええじゃろう! それよりも、みーぬちゃんは鎌村の嫁なんじゃから!!!」
——それが、嫁のつとめじゃろうが、と。
つまりまとめるとこうよ。
夫のそばにいる妻は、いらない。鎌村家に出勤する嫁が、ほしい。
……それ、求人ですか?
「それよりも」の五文字に、わたしという人間の優先順位が全部書いてあるんだよね。
で、思い出してほしいんですけど。この声量で守られてる「役目」とやらの中身、唐揚げをお重に詰めるだけなんですけど?

こっちはかまぼこしか切らせてもらえないんだってばよ・・・
まことくんは言い負かされそうになってた。わたしは「ちょっと変わって!」と電話を代わった。
そこにすそこ様も参戦。

おせちのお重に詰めるんは、みーぬちゃんの役目じゃのに!
みーぬちゃんはきれいに詰め寄るからおかあさんはいつも褒めよるやろ?
みーぬちゃんがやらなきゃいけないことなんよ。
やらんことは許されんのよ

なんだか私がすごく悪いことをしてるかのように地味に追い詰めてくるやん・・・
適当に詰めてるだけなのに、お重に詰めることってそんなに重要任務なん?
このセリフ、覚えておいてください。あとでまた出てきます。
そしてカツオくん、ここでぶっこんできた。

それになぁ!!!
おふくろは、味付けがおかしくなっとんじゃぞ?!
みーぬちゃんがきて、お袋の味を覚えにゃあかんじゃろーが!
おふくろにとっては一大事なんだぞ!
——出ました。「嫁の役目を果たせ」、というやつです。
(おふくろの味を覚えろって…。聞いたって教えてくんねえんだよ、あなたのお袋さまは)
カツオくんにしてみれば、何より大事なのはおかんの味。
でもねぇ… 残念ながらそのレシピは門外不出なのよ。
すそこ様は自分にとって代わられるのがとてつもなく耐えられない人なんですよ・・・
覚えろと怒鳴る兄と、教えない母。
このすれ違いコントの中で、わたしに果たせる「役目」って一体なんなんですかね(味付け=聖域の構造はこちら→かまぼこ係の回)。
そしてここで、わたしは驚かなかったの。父の介護で通った道だから知ってる。だからわたしは、圧に負けずに言い続けた。

「年を取ると、味覚障害っておきるのは普通にあることだけど…。(本当は認知症初期のやつだとは思うけど)
ちょっと味覚が鈍ってしまって、味が濃くなったり、塩加減も感じにくくなっちゃうから、それはしょうがないことだよ・・・
…そうなん?みたいな一瞬の空気があったから、わたしも追い打ちをかける。
「わたしが行ったとしても、おかあさんの味にはできないよ?
一般的な味にはできるかもしれないけれど、何よりおかあさんやお兄ちゃんが大事にしてるのは、おかあさんの味つけでしょ?それは私にはわからない。
一番わかるのはお兄ちゃんなんじゃないの?
別に代わりに料理をつくれ、ってことじゃなくて、一緒に味を見て ちょっと塩が足らないとか、もうちょっと甘いとかそういうことを言ってあげることが大切なんだとおもうよ?
今、おかあさんは認知症だっていわれて落ち込んで、料理の塩加減とがわからなくなったといって自信を無くしかけてるでしょ?
今大事なのって、自信を取り戻すことだと思うよ。
わたしが、手伝うってことよりも、おかあさんが自分の力でまだまだやれるってことを感じてもらうことが今は大事なんだよ。」
ってあつくあつーく語った訳。
負けてたまるか!って思って。
そしたらカツオくんのテンションがだんだん下がってきて、最後は「うん、わかったわ」的なモードに。
(細かい着地はもう記憶が曖昧だけど、わたしたちも折れなかった)
……勝った? これ、勝ったのか?
こうしてわたしたちは、元旦に帰ることになりました。
ふぅーーー。
たった半日、帰省を削るだけのために、なんでこっちがここまで身を削らなあかんの。
なお。興奮して怒りが止まらなくなったわたしの隣で、まことくんはポンポンと背中をさすっておりました。
頼りなかったからわたしがしゃしゃり出たわけだけど、味方ではあった。当時の彼の現在地として、記録しておきます。
一度きりの、勝ち取った元旦
大晦日。わたしたちは大阪へ立ち寄って、鶴橋やコリアンタウンで食べ歩き、マッコリでべろべろになったのでした。
ささやかな、でも死守した自由。
宿泊は義実家のある駅前の常連宿、東横インに前乗りして、元旦の朝、義実家に到着。
例の儀式を経て(あけおめは、まだ言ってはいけません)、食卓へ。
おせちは、すでにお重に詰められて完成しておりました。
……え、待って。わたし、何もしてない。
人生でたぶん初めての、何もしない元旦です。
そしてね——すそこ様が詰めたお重、ちょっとセンスがなかったの。
適当に詰めてるだけのわたしと、そんなに差が出るとは思わなくてさ。ごめん、ちょっと笑った。
で、すそこ様は電話でのあの「お重に詰めるんはみーぬちゃんの役目」を、元旦の間に何回も何回もリピート再生。
そしてわたしは、「これからは必ず大晦日に帰ってきて、おせちを詰める」という約束をさせられたのでした。
だから白状しておくと、元旦だけの帰省に成功したのは、この年一度きり。
翌年からは大晦日出勤に逆戻りです。
あの約束が、その後どうなったか——それはまた、別の話。
それとね。その年のおせち、いつもよりちょっと塩が足りなかったの。味が薄くて、あんまり味がしなくて。
カツオくんが電話で言ってた「味付けがおかしくなっとる」は、嘘ではなかったんだと思う。
勝ったのは、半日の自由と鶴橋のマッコリ。負けたのは、以後の大晦日。
収支だけ見れば、たぶん負けです。
ただ——このとき電話口に置いた一言。
「おかあさんの味を一番わかってるのは、お兄ちゃん。一緒に味を見てあげて」。
これだけは、誰にも回収されずに残った。
とりあえず、2023年の出来事はここまで。
5話に渡ってここまで書いたことは、実は全てフリです。伏線です。
そして、まだまだそのフリは続きます。
この置き忘れられたような一言も含めて、そのフリは、2026年に全て回収されていくことになります。
詳細はまた次の機会に。
(つづく。翌2024年の正月、まことくんがカツオくんに初めて牙をむく話→トランプ交渉術の回)
