【第2章】味付けを奪われた台所で、私は「かまぼこ係」だった

みーぬ
〜“家庭の味”という名の支配装置を観察する〜

プロローグ|嫁いだ頃のわたし

嫁いだばかりの頃、
私はけっこう素直に、純粋に思ってた。

みーぬ
みーぬ

「鎌村家の味を覚えたら、きっと喜んでもらえるんじゃないかな」

今思えば、あのころの私は、
一滴の濁りもない透き通ったラーメンスープみたいなもの。

(いまはもう少し、いい感じにコクと背脂(毒)入り。完全みーぬ仕上げ。)


「目分量じゃからなぁ」で封鎖されるレシピ

「おかあさん、この煮物、どうやって味付けしてるんですか?」
「味を覚えたくて。レシピ、教えてください」

そう何度聞いても、返ってくるのはこのひとこと。

姑すそこ
姑すそこ

「そうはいうても、目分量じゃからなぁ」

トポトポ、ドバドバ。
豪快に調味料を入れてにっこり終了。

いやいやいや、大さじ・小さじで測ればいいだけでは?
この“教えないのに教えた風”の技、ある意味名人芸の域じゃん…


味付けは、王国の最後の砦だった

当時は「まぁそんなもんか」と思ってた。
でも今ならハッキリ言える。

みーぬ
みーぬ

“味付け”は、すそこにとって「王の座」を守るための聖域だった。

だから誰にも教えない。
誰にも渡さない。

だって、それを明け渡したら、
「すそこ様」が家の中で“特別”じゃなくなってしまうから。


かまぼこ係としてのわたし

義実家の台所で、私が任されるのはいつも“味に関わらない作業”。

  • かまぼこを切る
  • ネギを刻む
  • サラダを盛る

つまり私は、「鎌村家の味」に関われない存在として、
アシスタント以下の“下働きレベル”に据え置かれていたわけ。

最近はさすがに味覚も衰えてきたようで、
「これ、甘いかな?しょっぱいかな?」って聞かれることもあるけど、
あくまで“確認”係。主役は常にすそこ様。


都合のいいときだけ「嫁」扱い

普段は、おかん様オンステージ。
私は、ただの照明係。

でも、舞台がぐらつくと突然こう言われる。

姑すそこ
姑すそこ

「ほら、嫁なんじゃからあんたがやるんよ」

え?
何の準備も心の準備さえない私にいきなりマイクを渡されても??

せめてリハーサル…いや、打ち合わせくらいはさせてちょうだい…


“急なお客様降格”事件

最初の頃は、こう言われてた。

姑すそこ
姑すそこ

「みーぬちゃんは何もせんでええから。おかあさんがするから」

だから私は、客間に通されつつも、なんだか居心地がよくないというか、居場所がない中で帰省していたんだよね。

ところがある日のこと。私が病み上がりで寝ていた時に義父ウニ男がいきなりこう怒鳴る。

「おい、みーぬ!!なんで手伝わんのじゃ!!!」

「すそこが風邪をひいてしんどそうなのに、お前は何をやっとるんじゃ!」

え? まず。なんでいきなりあなたが私の名前を愛称の短縮系で呼び捨て?

ていうか、……あれ?
つい先日、私が熱が出てインフルっぽく倒れてたときのことは? お忘れですか?
それがもとでまことくんにもカツオ氏にも移ったんですけどね?

しかもカツオ氏だけが心配されて、私はガン無視、まことくんは軽視されるこの不条理。

極めつけはすそこ様のひとこと。

姑すそこ
姑すそこ

「みーぬちゃん、あなたはお客様じゃないんよ。鎌村家の嫁なんだから、いつまでもお客様気取りでおられても困るんよ」

いやいやいやいや、
最初に“お客様扱い”してたのは、そっちでしょ……?


「これがええんよ」で自信を奪う道具

台所で、すそこ様が渡してくるのは、業務用かと思うほどに異様に長くて重たい包丁。

姑すそこ
姑すそこ

「これがええんよ。重みでキャベツとか簡単にザクザク切れるから」

すそこ様が長年愛用している道具。
これを私に扱えと? 冗談でしょ・・・
長すぎて重すぎて怖すぎなんですけど。

というか、私が切るのは肉とか魚じゃない。
かまぼこ切るのにこの包丁?

手元がたどたどしくなったり、
うまく切れないのは、私が不器用だからじゃない。
道具が合ってないだけだよ、と誰か優しく慰めてください…

でも「これがええ」と言われたら、逆らえない。
できない私は、“出来の悪い嫁”になるだけ。


唯一教わったのは「めんつゆ」だった

味付けにタッチできなかった私が、唯一教わったのは“すそこ様のめんつゆ”。

姑すそこ
姑すそこ

「うちの家族は、昔から手作りのめんつゆで育ってきてるから、これじゃないと美味しくない!といって食べんのよ。だから、作り方を教えるからまことに作ってあげて。

それにこれは体にええんよ。市販品なんて添加物とかいっぱい入っているから、お母さんは家族に添加物が入ったものを食べさせたことはないんよ。
お嫁にきてくれたみーぬちゃんだから特別に教えるんよ。」

でもまことくんの部屋には、
水代わりのダイエットコーラの空きボトルがゴロゴロ転がってたし、
冷蔵庫には市販のめんつゆとマヨネーズが仲良く並んでた。

……このギャップが現実。


わたしは、わたしの味で生きる

一度だけ、その自家製めんつゆを作ってみた。
でも――

みーぬ
みーぬ

正直、そこまで感動する味・・・?

たまり醤油?高いし手に入れにくいし。
大量仕込み?無理無理。

市販でよくない?
めんつゆって最強アイテムだし。
アレンジだってできるし、そもそも美味しいし。

でも義実家では毎回こう言われる。

「やっぱり、すそこのめんつゆはうまいのう!」
「そうめんは、やっぱりこれやないと食えんわ〜」

(そのめんつゆ、味の素ドバドバ入ってますけどね。)

添加物を入れたものを家族に食べさせた事がない!と言い切るすそこ様のその矛盾言動に私は精神的に追い詰められずにすんだかも。(てへ)


エピローグ|「醤油も、砂糖も、わたしが決める。」

すそこ様は、味噌も、焼肉のたれも、ぽん酢も、漬物も、佃煮も全部手作り。
それはすごいことだし、きっと愛もあった。

でも――

手を抜く人に、愛情がないわけじゃない。
手作りできない人に、罪があるわけじゃない。

みーぬ
みーぬ

”手作り=愛情の証”と決めつけるのは、暴力にもなる。

そう気づけた私は、
もう「かまぼこ係」で終わる気なんてさらさらない。


私は、わたしの味で生きていく。

みーぬ
みーぬ

醤油も、砂糖も、わたしが決める。

みーぬ
みーぬ

美味しければそれでいいじゃん。
私は美味しいレシピを有料会員で今日も検索します

あわせて読みたい
【第3章・前編】悪口を言わないという人ほど、だいたい言ってる件
【第3章・前編】悪口を言わないという人ほど、だいたい言ってる件
ABOUT ME
みーぬ
みーぬ
観察系記録ライター
義母との複雑な関係をきっかけに、 “家庭”という名の舞台に仕込まれた違和感を見逃さず、 観察・分析・記録を始めました。 このブログでは、 心を守るための言葉を綴っています。 最初は、誰にも言えない気持ちの吐き出し。 でも、記録しながら自分の感覚を取り戻し、 今は“自分で自分を守れる言葉”を紡いでいます。 私にとって「書くこと」は、 日々のズレや不安から自分を切り離す、小さなサバイバル術です
記事URLをコピーしました