第8話:ベッドの上から、数年ぶりの「正確な発言」
前回の第7話で予告した、2大ミッション——免許返納と施設入所——の戦いの記録です。
舞台は帰省初日のリビング。だんなちゃんの「それはそうと、先に話があるんだけど」から始まった直球勝負の、その先。
先に言っておくと、この日、あの家で数年ぶりに「正確な発言」を聞くことになります。しかも、2回も。
例によって、これはわたしから見た景色の記録です。
免許返納戦|正確な発言・その1
だんなちゃんが頑張って免許返納の話をしてくれている横で、わたしもエンジン全開で補足に入りました。富士急のドドンパ並みの加速度で!

東京であったじゃないですか、高齢ドライバーの大きな事故。あれで「なんで家族は運転をやめさせなかったんだ」って、家族まで叩かれることになりましたよね。
子どもにまで迷惑がかかって、この家に住めなくなることにもなりかねないんです。だから、運転をやめさせるのは子どもの責任なんですよ。責任があるから、言ってるんです
すると、ウニ男さん。

なんや、おまえらは。結局、自分が迷惑かけられるのが嫌なだけだろうが!!

はい?
そうですけど? なにか?
……お気づきでしょうか。
これ、合ってるんですよ。
迷惑をかけられたくないから、言ってる。そのとおりなのよね。事故が起きたら、被害者が出て、家族全員の人生が変わる。迷惑どころの話じゃない。
論点をずらしたつもりの逆ギレが、まさかの事実への直撃。「正確な発言」をただただしてるとゆぅ(-。-;
逆に、子どもにそんな迷惑をかけていいと思ってます? まともな親であれば子どもにはそんな迷惑をかけることはできないって自重するとこだけどね。
施設問答|「入れると思うんよ」の無限回廊
続いて、施設のお話。
わたしの主張は、2、3年前から一貫して言い続けてるけどね。認知症の家族が1人いるだけで、家族全員の生活が破綻するくらいに大変になる。だから、すそこ様にまだ判断力があるうちに、まずウニ男さんに施設に入ってもらうのが優先順位の最初——という話。

まだまだ私は大丈夫なんよ。で、お母さんがもうだめになったときには、お父さんと一緒に施設に入るから

その「だめになった時」の判断は、もう自分ではできなくなってるんですよ。
それに、いいところは空きなんてない。今すぐ入れとは言ってません。見学するとか、情報を集めるとか、実際に行動してますか?って聞いてるんです。猶予はもうないんですよ

お父さんがお世話になってるデイサービスとかケアマネさんのところが、お父さんのこともよう知っとるし、そこになると思うんよ。入れると思うんよ

そこに、すぐ入れるのか確認して聞いてますか?
そもそもそこは医療系なんで、お父さんは入れても、お母さんは一緒に入れないかもしれませんよ?

入れるとお母さんは思うとるんよ

ですから、「入れると思うんよ」はおかあさんの感想ですよね? 私は入れるかどうかを実際に確認したかをまず聞いてるんです

…聞いとらんよ

じゃあ まず、そこを聞いてもらってもいいですか?
私が言ってるのはすぐに施設に入れと言っているのではなくて、いつ入ることになるかはわからないけれど、実際に入らなくちゃいけない現実が来た時に、空きがなかったらその日・その瞬間からどうするんですか?って、ことを言ってるんですよ。
それはおとうさんに対してすごく残酷で無責任すぎると思いますよ。
すぐに入れるかもしれないけれど、待ち人数が何十人、何百人といるかもしれない。そうしたらどうするんですか?
だから、とにかくそこは確認をしてください

まぁ 入れると思うんじゃけどなぁ
だけど、心配することはないんよ。おかあさんはまだまだ大丈夫だし、その時がきたら2人で一緒に入るから。
それに、おとうさんが今、通いよるデイサービスのところに入れると思うんよ。
おとうさんのこともよぅ知っとられるし、だからそこには入れてもらえると思うんよ
出口がない。

確認したのか?と聞いているのに、返ってくるのは「思うんよ」。
希望と確認の区別がつかない会話が、ぐるぐると同じ場所を回り続ける。
「入れると思うんよ」の無限回廊
ちなみにわたしは、この話をするたびに枕詞をつけてます。
「私は2、3年前から言い続けてるんですけど」。
ブレずに、一貫して、何の問題も起きてない頃から。誰に届いてなくても、その場にいる誰かには届くように。
ベッドからの咆哮|正確な発言・その2
無限回廊にしびれを切らして、わたしは意を決して核心を突きにいきました。

結局、お父さんは危機感がないんですよ。どうにかなるとしか思ってない。お母さんがだめになったら、みーぬがきて面倒を見ればいい、くらいにしか思ってないんですよ

みーぬちゃん。それはないわ。お父さんはそんなことする人じゃないんよ。そんなこと思ってないし、そんな人じゃないとお母さんが保証する

「そんなことする人じゃない」とおかあさんはそう言いますけど、じゃあどうするべきかをおとうさん自身は考えているんですか?
『俺は自ら施設に入る。こどもたちには迷惑はかけない』とおとうさんから言い出すべきなんじゃないんですか?
施設に入ってくれ、と家族に言わせること自体、とても残酷なことを家族にさせてるんですよ?
楽観的にしか考えてないから、何を優先するべきかを考えないんです。どうにかなると思ってるから、お父さんは動かないんですよ。
危機感がまるでないんです
そのとき。
それまでベッドに横になっていたウニ男さんが、這い上がってきて、会話に突如割り込んできた。

結局、おまえらはわしの面倒をみたくない、ってことなんじゃろうが!
正確な発言・その2、いただきました。
はい。否定しません。その1に続いて、またしても合ってます。
でもね、ウニ男さん。もっと大事な事実がもうひとつあるんです。
みたい・みたくないの感情の話以前に、物理的にみられないんです。これからすそこ様の症状が進んで、家族一丸で頑張らなきゃたちゆかなくなるのに、そこにウニ男さんの介護まで乗ったら、現実的に不可能。
感情の問題にすり替えれば話をひっくり返せると思ったんでしょうけど——感情を抜いて計算しても、答えは同じなんですよ。それをわたしは2、3年言い続けてるんです。
逆ギレのつもりで叫んだ言葉が、2回連続で、問題の核心に着地する。自覚のなさがちょっと残念ではあるけど(-_-;)
曖昧な楽観と「思うんよ」で満たされたあの家で、皮肉なことに、いちばん現実を言い当てていたのは、逆ギレしたウニ男さんの叫びでした。
そして、「わしが動く」
戦況が膠着したところで、わたしは落ち着く暇もなく次のテーマへと舵を切る。
認知症と、財産凍結の話ね。

これも毎回言ってることなんですけど
認知症になると財産凍結になって、お金がおろせないこともあるんですよ。だから後見人をお兄ちゃんにするか、第三者の専門家になってもらうかを、おかあさんの判断能力があるうちに決めなくちゃいけないんです。
ここ、地味に大事な設計があって。候補として「わたし」や「だんなちゃん」の名前は、あえて一切出してません。理由は最後にわかります。
すると、意外な人が前のめりで食いついてきた。

わしはそんなことになるって知らんかったから、まずそこは動く
後から聞いた話では、すそこ様が通帳と印鑑をなくして大騒ぎした事件が過去にあったらしく。財産凍結という言葉が、他人事じゃなく響いたようなんだよね。
そしてこの流れが、免許返納問題にもつながっていくんだけど。あの家の名義は大抵ぜんぶウニ男さんのまま。手続きのたびに身分証明書が要る→「だから免許は返納できん」が言い訳として機能してたわけだけど。
今回も、ウニ男さんが「だから、免許証がないと身分証明書がなくなるから返せれんのじゃ」とベッドから叫んでましたわ。
運転経歴証明書が身分証になりますよ、と言ってもゴニョゴニョ本人は文句たらたら。
・・こりゃだめだ。すぐには動きそうにない。そこで。

マイナンバーカードがあります。

じゃあ、家族3人で作る。それも、わしが動く。一緒に行けばいいんじゃろ?

え?
「わしが動く」……?
あなたの口から、その言葉が出るの?
これまでのカツオくんは、なんでもかんでもすそこ様が先回りしてやってしまう家だった為に、「何もさせてもらえない&しなくていい」環境に置かれ続けた人。すそこ様自身も「お兄ちゃんはようやらんだろうなぁ」と言葉にして認めるくらいだったのに。それがそれが、まさかの行動力に私とだんなちゃんは驚きが隠せない。まさかまさかこんな頼りになるご長男だったとは!
その人が、役割を与えられた途端に「わしが動く」を連発しはじめた。
作戦は全滅したのに、計画書に書いてなかった場所で、何かが急に動きはじめてました。
その夜、茶の間で
この日はここまでで、(他の話題ももちろんあって、ずっと私たちは頑張り続けましたぁ〜)
わたしたちはホテルへ。
で——わたしたちが帰った後の茶の間で何が起きていたかは、翌日、カツオくんの口から聞くことに。

なんで、みーぬちゃんにあそこまで言われにゃあかんのじゃ!
まことだけじゃなくて、あんたまでみーぬちゃんに洗脳されてしもうて。みーぬちゃんに好き勝手されるーーーーーー
乗っ取られるーーー!
乗っ取る予定は、ありません。
後見人の候補に自分の名前を一度も出さなかったのは、こうなることがわかってたからです。伏線、ここで回収。
それにしても——この夜の騒ぎを、翌日わたしたちにそのまま報告してくるカツオくん。何かが決定的に変わりはじめてます。
次回、覚醒したカツオくんと2人きりの「認知症勉強会」。
そこで彼の口から、驚愕の一言が飛び出します。わたしが10数年かけて観察してきたことを、彼は——。
(つづく)

