義母と大島紬と、あげる気ゼロの譲渡話

みーぬ
〜それ、最初から渡す気なかったでしょ選手権〜

朝から晩まですそこ接待の日々。

連休で義実家に帰省したある日。

例によって私は、朝から晩まですそこ様の話し相手をさせられておりました。

そのとき、ふいにすそこ様が言った。

「嫁に来る時に、花嫁道具として、ええ着物一式を用意してもろうたんよ。
でもなぁ、おかあさん、着物なんて着る暇なかったし、ほとんど袖通してないんよねぇ…」

からの、長い独白。

「ほんまええもんなんよ。
たくさん仕立ててもろたんに、ほんまに勿体ないよなぁ。
仕立てていない大島紬もあるんよ。
おかあさんはよう着なかったけど、娘でもなぁ〜…おれば引き継いでもらうんじゃけど、
おかあさんには息子しかおらんからなぁ。
みーぬちゃんはあれじゃろ?
こんな年寄りの使い古しなんかいらんやろうしなぁ…
もったいないなぁ。
でも捨てるには惜しいんよ…。
だけど、処分せにゃいかんわ」

ふんふんと聞きながら、私はちょっと思った。

(え、それ…もしかして私がもらったら喜んでくれるやつ?
ちょうど着付けを習いたいと思ってたことだったし。
着付けの先生をやってる人が、親たち世代以上はいっぱい上等な着物を持ってるけど、
今は売っても二束三文だから貰えばいいよ、って言ってたし)

親たちは、高価なもんだと信じて高価買取の看板につられるも、その評価額に愕然とするらしい


まさかの“地雷”だった「もらってもいいですか?」

そんなこととはつゆにも思わない私は言った。

「よかったら、どんな着物があるか見せてください!
着付け習ってみたいと思ってたし、処分するくらいなら私が引き継げたらうれしいなって」

すそこ様は意外そうな、複雑そうな顔をしたけれど、自分が言い出した手前、断ることもできず、

「…あぁ、…じゃあ、見てみる?」と渋々タンスの中身を出してきた。

反物もあれば仕立て済みのものもあり、量はかなりあった。
ただ、正直な感想を言えば… 全部はいらないかな 笑
(でもまぁ練習用にはなるし、もらえるならいいか~)と思って、
私は一枚一枚確認しながら

(このへんかな? こっちはいらないけど、こっちは着てもいいかも…)

そのとき。

すそこ様がピシャリと言い放った。

「気に入ったやつだけもらう、ちゅうんだったら、あげるわけにはいかんよ。
全部揃ってないと価値が下がるんよ。全部もらうんなら、まぁ…考えてあげなくもないけど」

…え、は???


あげるつもりなんてなかったんかい。

(さっき「処分に困ってる」とか言ってなかった?)

私はあわててフォローするように言った。

「でも着付けやってる人たちが言ってましたよ、大島紬だろうと、全部揃っていても今は高価買取は難しい時代だって。
今は私たちの親世代はみんな持ってるし、売る人が多いから、って聞きました」

すると、目を見開いたすそこ様が叫ぶ。

「そんなことあるかいな!これは上等なもんやから!」

もう…完全否定。
執着がすごい。目がギラついてる。

…この瞬間、私は悟った。
(あぁ、最初から譲る気なんて一ミリもなかったんか、と。)


自分で撒いた種を全力で回収。

今になって思えば、私が「見せてください」と言ったときの焦った顔。
あれがすべてを物語っていた。

それに、今思い返すと、
“みーぬちゃんは、こんな姑のお古はいらん、って言うやろうし”
って、聞く前から私の意見を勝手に妄想して悪く言ってたな・・

恐らく、少しアレンジして、後々にそうやって嫁の悪口のネタを言いたいがための伏線を敷いてただけだったんだろうな…って容易に想像つくわ・・・

自慢はしたいけど、嫁に取られたくはない。
でも自分から「処分しようかと思ってる」と言い出してしまった手前、見せないわけにもいかない。
なんとか言い訳をつけて「やっぱあげたくない」方向に着地させたくて、絞り出したセリフがあれだったんだろう。

…いや、だったら最初からだまっとけ。
ほんと、いい性格してるわっ!


そして後日、見守りカメラで見た“真実”。

帰省が終わってから数日後。見守りカメラで偶然、すそこ様とカツオ(義兄)の会話を聞いてしまった。

「おかあさんが死んだらなぁ、大島紬を着せてほしいんよ。
でも死んだ人って、あんな服着替えさせられんのよ。
だから棺桶に入れてかけてくれるだけでええんよ。こんなこと誰にも頼めへんから、あんたに言うとくわ」

ハイハイ。
私の被害妄想でもなんでもなく、物証を押さえました。
これは何罪ですか?

詐欺罪ですか?
いや、罪に問えなかったとしても、道徳的にどうなん?

まぁ、いいけどさ。。。
いつものことだから。

…にしても
その年齢で湯灌の儀も納棺の儀も知らんことにも地味に驚いたけども
服は着替えさせてもらえるし、今は死装束も服を着させて貰えるんですけど??


父との記憶が浮かんだ日。

私は思い出した。
亡くなった父のために納棺師さんがしてくれた、あの丁寧な儀式。
めっちゃ感動したんよね。

ガリガリに痩せてしまったけど、きれいにしてもらって、顔や髪を整えてもらって、
いつも着ていたお気に入りのシャツとジャケットを着せてもらったら
「あ、お父さんだ」
って、思わず言葉が出た。

そういうのが、あったから。
なおさら思うんだよね。

こういう旅立ちの時に着るものって、その人らしさがあるものがいいって。

普段着でもなくて、でもちょっと百貨店に行く時に着て行くくらいの感じでお気に入りだった服が一番らしいなー、って思う。

あなた、その大島紬、一度も着たことないですよね…

そもそも、あなたに着物のイメージがなさすぎて、かけ離れすぎてるんですけど…。
誰のための“晴れ着”やねん。
みんなが、「あんた、誰?」ってなっちゃうから、
せめてゴルフウェアに、してもらっていいですか?


ということで、結論。

「処分しようか迷ってる」と自分から言い出しておいて、
いざ嫁が欲しいと言ったらあわてて回避。

だったら、”あんたなんかに、私の高価なものあげたくない!!”って最初から言えや。

これが、地味でくだらないけど、効いてくる詰め将棋的なモヤ圧。

地味圧すぎて、多分 見えない人には見えてないんだろうなぁ〜…

地味に地味に、なんかボディーブローをくらうようなこのダメージ感というか、この現行不一致加減がモヤるのさ。

ちなみに私は今後も着物の話をすそこ様からされても、
絶対にノってやらないことにしました。

大島紬?
いやいや、すそこ様の死装束用に取っといて下さい。

どうぞどうぞ、あなたのとっておきの一張羅ですから。

次の記事はこちら
年齢マウントと“抗いの美学”
年齢マウントと“抗いの美学”
ABOUT ME
みーぬ
みーぬ
観察系記録ライター
義母との複雑な関係をきっかけに、 “家庭”という名の舞台に仕込まれた違和感を見逃さず、 観察・分析・記録を始めました。 このブログでは、 心を守るための言葉を綴っています。 最初は、誰にも言えない気持ちの吐き出し。 でも、記録しながら自分の感覚を取り戻し、 今は“自分で自分を守れる言葉”を紡いでいます。 私にとって「書くこと」は、 日々のズレや不安から自分を切り離す、小さなサバイバル術です
記事URLをコピーしました